慶應義塾大学 商学部・商学研究科

新保一成 研究室

開発と環境の経済分析...

2012 India Study Tour(8/19〜8/26)

biogas biogas 8/19〜8/26に2012 India Study Tourを実施しました。 今年が2回目のIndia Study Tourです。

今年は,3年生11名,修士課程2名,それに経済学部の河井啓希先生,神戸夙川学院大学疋田浩一先生の特別参加を得て, 計16名のツアーになりました。 ご協力いただいたThe Energy and Resources Institute(TERI)のMr. Aditya Ramji, Ms. Ritu Singh, Ms. Ritika Sehjpal, Ms. Ritu Mathurに感謝申し上げます。 最後に,ホテルや車の手配をはじめ,さまざまな面でわれわれをサポートしてくれたセナさんには, 何度感謝申し上げても仕切れないほどです。 みなさまのおかげを持ちまして,2012 India Study Tourがなんとか無事に終えたことを感謝申し上げます。ありがとうございました。

今年はStudy Tourの前に東南アジアを旅行してインドに入る学生もいるなど,8月19日に全員がDelhiに集合することになりました。 また,それぞれが安い航空券を探すなど,学生たちが自主的にさまざまな工夫をしたこともよかったと思います。 結果として,IGIA(Indira Gandhi International Airport)への到着,ホテルのチェックイン, チェックアウトの日時がバラバラになりましたが,それに対応してくれたセナさんに感謝です。

今年はTERIが実施する農村におけるエネルギー転換に関する家計調査のパイロット・スタディに同行した。 TERIのGreen Growth and Development Divisionは, Madhya Pradesh(MP)州のRajgarh districtとRaisen districtの村でパイロット・スタディを実施して調査結果を解析しながら調査票を逐次改訂し, 2013年に40000家計に関する本調査を実施するそうだ。

インドでは政府機関であるNSSO(National Sample Survey Organization)が農村家計約80000,都市家計約40000に関する家計調査を実施している。 にもかかわらずTERIがエネルギー転換に関する農村家計調査を実施する理由は次のとおり。

  1. NSSOの調査でも照明および調理に用いる主たる燃料を質問しているが,そのような燃料あるいは器具が選択された理由がわからない。
  2. 多くの農村家計は,電力にアクセスすることができず,調理には伝統的なチュラ(Chulha)で薪や乾燥させた牛糞を燃やしている。 これらのデメリットとエネルギー転換のメリットは以下のとおりだ。
    • 電力にアクセスできない家計は,灯油を燃やして灯りをとり,家事,火傷,煙による呼吸器,肺の疾患のリスクに常に曝されている。 また,灯油は瓶に詰めて燃やすため,子供が誤飲するリスクもある。 政府によって村が電化されれば,これらのリスクを回避することができるが,電化計画がなかなか計画どおりに進捗しないのと, 電線が来ていても電力が供給されているとは限らないのが実情だ。 Adityaの話では,たとえ電化されていても実際に電力が供給されている世帯は35%から40%に過ぎないという。 電化されるまでの暫定的な方策としてソーラー・ランタンを導入すれば,上記のリスクを避けることができるばかりでなく, 仕事時間の増加による所得増や家庭内における女性の地位の向上,学習時間の増加など,生活の質を向上を期待することができる。 TERIが実施するLABL (Lighting a Billion Lives,10億人に灯りを)プロジェクトは,そのような効果をねらっている。
    • 伝統的なChlhaで薪や牛糞を屋内で燃やしたときに発生する煙は,女性や幼児の呼吸器官や肺の疾患のリスクを高くする。 伝統的なChulhaに煙突をつけるだけで,これらのリスクを回避することができる。 さらにLPGに転換することによって,女性や子供たちが燃料を収集する時間を労働や勉強にあてることが可能になり, 生活の質の向上を期待することができる。
  3. 問題は,これらのメリットとデメリットを農村に暮らす人びとが知らないことである。 そして,メリットを知っていたとしても,それが実現するのに長い時間を要するので,導入しようとしないことである。 この点は,バナジー+デュフロの『貧乏人の経済学』でも指摘されている。 TERIによる調査のもう一つの目的は, これらメリットとデメリットを農村で暮らす人びとに周知させることだ。
  4. もちろんソーラー・ランタン,煙突,LPGストーブの導入は,各家計における所得の上昇が必須である。 TERIの調査では,これら機器導入のメリットを十分に説明した上で, これらの機器に対する支払意思額を調査することによってcontingent variation分析を試みようとしている。
  5. 貧困線以下で暮らす家計にとっては,自力でこれらの機器を購入することはおよそ不可能である。 そのような家計の女性たちがSHG(Self-help Group)を形成し,グループとして貯蓄をしたり, SHGとして政府のDPIP(District Poverty Initiative Project)やマイクロ・ファイナンスを受け入れて, これらの機器を導入するのも一つの方策である。 このような方法の存在を教え,コーディネーターになり得る人材を発掘するのもTERI調査の役割である。

TERIのパイロット・スタディに選ばれた村には次のような特徴があり, その調査自体が一種の対照実験になっている。 また,TERILABLのフォローアップ調査にもなっている。

  • Rajgarhの村には,女性たちのSHG(Self-help Group)が形成されており, 政府のDPIP(District Poverty Initiative Project)やTERILABL(Lighting a Billion Lives)などのプログラムが実施されている。
  • それに対してRaisenの村には,SHGもなく, DPIPやLABLなどのプログラムが入った経験もない。

2012/08/20

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ホテルに着いたとたんにバケツをひっくり返したようなゲリラ豪雨と雷。 今回のインド訪問は,毎日のようにこのような豪雨に悩まされることになります。

2012/08/21

Bhopalから車でRajgarh districtのMoya村を訪問。 舗装道路ではあるが補修がいっさいなされていないようで道は穴だらけ。 おまけに何度も野良牛に行く手を遮られながらおよそ3時間で到着。 途中,州が経営するMotelでランチをとった。 Motelとは食堂付きの宿泊施設で,最近では農村部にこのような施設が充実してきているので, 農村部へも食事や宿泊の心配をせずに入ることができるようになったそうだ。 ちなみに農村部でHotelというと食堂だけの施設が多いようだ。 このMotelに着いたとたんにまたもゲリラ豪雨でこの後ずっと降り続ける。

biogas Rajgarh districtのDPIP(Discrict Poverty Initiative Project)のコーディネーターであるPatilさんに案内された家では, 多くの女性たちに歓迎された。 Moya村には261家計が暮らしているが,そのうち260世帯が後進クラス(指定カースト110+他の後進クラス150)で, 一般家計(いわゆる上位カースト)がたった1世帯しかない。 DPIPの対象になっているのは,指定カースト89世帯+その他の後進クラス60世帯+一般1世帯=150世帯だ。 Moya村では80世帯の80人の女性たちが7つのSHG(Self-help Group)を構成している。 われわれを出迎えてくれたのは,そのうちの一つのSHGの女性たちである。 彼女たちにとってわれわれは,おそらく初めて見る日本人であろう。 いかにも興味津々という感じで手を合わせて「ナマステ」と挨拶をしてくれた。 SHGを組織することによって女性たちは外出をするようになり,会合を重ねることでいろいろな知識を獲得し, 家庭における女性たちの地位も向上してきているという。

biogas biogas biogas biogas Moya村には電気が通じていない。 訪問した家庭は,TERILABLにおけるソーラー・ステーションの役割を担っている。 雨のために見ることが叶はなかったが,この家の屋根にはソーラー・パネルが備え付けられていて, 写真(1枚目)でソーラー・ランタンの背後に見えるジャンクション・ボックスにソーラー・ランタンを接続してランタンの電池を充電する仕組みである。 7つのSHGを構成する83世帯のうち50世帯にここで日中に充電されたソーラー・ランタンが1夜2ルピーで貸し出される。 つまり,ソーラー・ステーションを営む家庭は,充電サービスを提供して100ルピー/夜の収入を得るビジネスを展開しているのだ。

この家では,厨房のChulhaにも煙突を取り付けている(写真2枚目)。 煙突付きChulhaはDPIPの対象世帯150のうち100世帯にすでに取り付けられ,20世帯が工事中だそうだ。 ソーラー・ランタンを使うことで灯油を燃やすことにる健康リスクを回避し, Chulhaに煙突を設置することで煙が原因である健康リスクからも解放される。 この家では,Chlhaの燃料には主に乾燥させた牛糞(Dung Cake)を用いている(写真3枚目)。 牛糞はこの家の女性たちによって収集され,手で写真のように整形し,壁に貼ったり,空き地に並べたりして乾燥させる。 ChlhaがLPGストーブに転換できれば,燃料収集に費やされていた女性たちの時間が自由になり,所得を稼ぐ機会が増えることが期待されるのだ。 もちろんこれら一連の設備を購入するには資金が必要である。 その資金の一部がDPIPで賄われ,残りは各SHGごとに50ルピー/月で積み立てた貯金を充てているとのことだ。

この家の敷地は十分に広く,バイクも保有し,どうみても再貧家庭にはみえない。 この家庭は,ただ一つこの村に存在する一般世帯なのだろうか。それは確認してみないとわからない。

女性たちから日本にも女性によるSHGはあるのかという質問が出た。 女性の地位向上,家計の生活の質の向上を目的にした女性が組織する自助グループが現在の日本にも存在するのかどうか,という質問だ。 残念ながらわれわれはそれに対して十分な知識を持っていなかった。 現在の日本では男女の分け隔てなく教育の機会が与えられており,経済発展の過程の中で合計特殊出生率も1.2ほどに下がり, 一人一人の子供に投資する教育費も上昇し,雇用機会の男女間不平等を是正する法律も整備され, インドに比較すれば相当に女性の地位の向上が達成されていると思うとしか答えようがなかったのは事実である。 自分の国の発展の歴史を開発途上国の人たちに伝えるのも,われわれの重要な使命である。 その当たりの準備不足を反省して来年に備えたいと思う。

この家をおいとまし,車で別の家を訪問した。ここもソーラー・ステーションを運営し,Chulhaには煙突を取り付けている。 激しい雨は降り続き,道路は完全に水没(写真4枚目)。 水没していないところでも牛糞を避けて歩くのは容易ではない。 もうこうなってしまっては,足元に何があるかなんてどうでもいい・・・

2012/08/22

Raisen districtの村に向かう。昨日のMoya村とちがい,DPIPやLABLなど政府やNGOのプログラムを経験したことがなく, SHGも組織されていないという。 Bhopalからの距離はMoya村と変わらないそうだが,道が少々ましな分だけ車のスピードが速い。 TERIのRituとRitikaの二人にとっては今日が調査の実習になるらしい。 車内で実際に使う調査票を見せてもらったが,インドに来る前に受け取ったものからかなり改訂されて簡素化されている。 彼女たちと調査について話しながらの2時間半ほどの道程は,あっと言う間であった。

biogas biogas biogas biogas biogas Raisenへの途中で写真(1枚目)のように陥没した橋に遭遇。すでに迂回路ができていたので問題はなかったが, その理由には驚いた。 てっきり1ヶ月ほど続いているという豪雨のせいかと思っていたが,なんとオーバー・ウエイトによるものだという。 ということは,これから通過するであろう橋もいつ陥没するかわからないということだ・・・一気に心配になる。 幹線道路を外れて現場に入っていくと,もはや舗装道路はなく,泥沼状態だ。 そこへ悪報。現場の村へ向かう橋が雨で埋没し,これ以上前に進むことができない。 急遽予定を変更し,手前の村で調査を実施することになった。 後で述べることになるが,この村は相対的に裕福な村で,調査を予定していた村は最貧に近い村だそうだ。 最貧の村に入れなかったのは残念であったが,自然が相手では如何ともし難いし, また最貧の村というのは自然に対して脆弱であることが不幸にも確認されてしまった。

まずは調査世帯を訪問して,Ritu,Ritika,Adityaが調査の趣旨を丁寧に説明して,調査を引き受けてくれることをお願いする。 アクセプトしていただけたが,回答をお願いした女性たちがなかなか出てこない。 昼の支度中ということであったようだが,はじめて見る日本人が16人もいるのを見ておじけづいてしまったのかもしれない。 2枚目の写真は調査風景である。手前で背中を向けているのがRituとRitikaで,その向かいに座っているのがこの家の3人の女性である。 左に立っているのは,世帯主の長男である。この家には世帯主,その子供家族の少なくとも3世帯8人が暮らしている。

RituとRitikaは,直接質問に入らずに一般的な話から初めて,徐々に質問を開始していく。 もちろん調査はヒンズー語で行われるので,Adityaが適当な所で英語で解説をしてくれる。 出だしの会話で,「この村に暮らす女性たちにとって問題は何ですか」とRituが尋ねると
(1)トイレがないこと。
(2)伝統的なChulhaから出る煙や灯りをとるために灯油を燃やしたときに出る煙で目を痛めていること。
というなんとも模範的な答えが返ってきた。 写真3枚目は別の家庭ではあるが,伝統的Chlhaを用いて調理している様子だ。 見れば何が問題か明らかだろう。 この3枚目の写真,われわれがこの現場を通りかかったとき, 手前にいる男の子が調理しているChlhaの目の前で大便をしていたのだ。 お母さんは,手早く大便にChlhaから出た灰をかけ,あっという間に処理をした。 女性たちに指摘された問題をオールインワンで見た光景であった。

この村は相対的に裕福な村だと言ったが,それでもこの家の月々の総支出額は1200ルピー, つまり一人当たり150ルピー,日本円で240円でしかない。 穀物を生産する農家なので,穀物については自家消費できるが, 野菜の多くを月曜日にdistrictの中心まで乗り合い車で買い出しに行くそうだ。 エンゲル係数は75%で,そのほかに教育費や医療費,そして農業のための支出ですべてを使い果たし, 貯蓄をする余裕はないとのことだ。 エネルギー消費に関しては,まず電気にはアクセスできない。調理には伝統的Chlhaを用いている。 実はこの家ではLPGストーブも保有している。 しかし,それを使うのは祭りや結婚式など大勢の人たちが集まり大量の調理が必要なときだけだそうだ。 日常的にLPGを使うには,LPGシリンダーの価格がこの家計にとっては高過ぎる。 食事の準備も調理済みのものが市場から調達できるわけではないので,すべて生の材料から調理するわけだから時間もかかる。 食事の準備にかかる時間は1日6時間を越えるそうだ。 さらにChlhaにくべる燃料を収集しなければならないので,女性たちが家事に費やす時間は膨大である。 この家では,自分の農地からの穀物残渣を燃料に用い,さらに,子供たちに大学までの教育を与え, 彼らが政府の職を得て都市で独立した生活を始めたので,使用する燃料の量も減り, 他の家計に比べれば燃料収集に費やす時間は少ないとのことだ。

この家の手前には政府が設置した共用の井戸ポンプがある(写真4枚目)。 村には全部で4つのポンプがあるそうだ。 われわれが滞在している間にも,多くの女性たちが水汲みにやってきた。 水汲みも女性たちの仕事だ。 安全の如何はわからないが,溜まった雨水や池の水を使うより安全であろう。 この井戸水をちょっとばかり口にした疋田先生が, その夜から腹を下したが,井戸水と直接的な因果関係があるのかどうかは今もって不明である。

この村を歩き回って目につくのは,家事に精を出す女性に比較してなんとも暇そうに過ごしている男性どもだ。 5枚目の写真のようにカード・ゲームに興じる男性たちをやたらと見かける。 村を探索する学生たちについて回るのも子供たちばかりでなく,働き盛りの年齢の男どもも多い。 調査世帯の男性たちもどうみても働いているようには見えない。 この村の家計は相対的に裕福だと言ったが,どういう意味で裕福かと言うと,土地持ちなのである。 彼らは自分たちの生活に必要以上の土地を小作人に貸し,自分たちはほぼ働かずにそこからの上がりで暮らしているのである。 開発経済学では,この手の地主と小作人の関係をPrincipal-Agent Modelで説明することがよくあるが, なるほどその理由がよくわかる。

biogas biogas 村を歩いて訪問した2件目の調査世帯は,広い敷地を持つ元村長の家であった。 この家では牛糞バイオガスを調理に使用している(左の写真)。 牛糞バイオガスの仕組みについては昨年の2011 India Study Tourの記事を参照されたい。 この家で飼育されている5頭の水牛から25kg/日の牛糞を集め写真(上)の発酵槽に挿入する。 昨年見てきたものと比べるとずいぶんとシンプルに見えるが,これで1日2食分のガスを賄うのに十分だそうだ。 投資コストは20000ルピー。ただし政府から50%の補助が出たそうなので,実際に支払った金額は10000ルピー。 ちなみに昨年訪問した家計のバイオガス設備は26000ルピーで,すべてフィンランド政府の資金で賄われていた。 この家の女性たちは,燃料集めと調理時間の短縮によって余裕のできた時間を農作業にあてて100ルピー/日の稼ぎをあげるという。 100日で投資コストを回収できて,さらに10年に1度のメインテナンスでよいというのだから,大変にお得な投資である。 それでもこの村の150世帯のうち牛糞バイオガスを導入しているのは,5から6世帯だけにすぎない。 比較的に裕福な村でも10000ルピー,日本円で160000円の投資はまだまだ高いということだ。

この村には学校が1つあるが,そこでは5年生までの教育しかできないという。 6年目からの教育は,ここから15km離れた学校まで通わなくてはならないそうだ。 最近は自転車で通う子供たちが増えてきたそうだが,以前はほとんどの子供たちが徒歩で通学していたそうだ。 調査隊ご一行に準備された椅子の真ん中に座り, Adityaとわれわれの質問にいろいろと答えてくれている男性は,いったい誰だろう。 Aityaが聞いてみると巡回医療でこの村を訪問しているものだという(医者であるかどうかは確認していない)。 この近辺には医療施設がないので,薬などを搭載した大型車で村々を巡回している。 重要な仕事の一つは,幼児に対する予防接種だそうだ。 一つの村を訪問できるのは数週間に一度で,複数回の摂取が必要なワクチンの場合,間に合わないこともしばしばだそうだ。

Bhopalに戻りショッピング・モールのフード・コートで夕食をとった。 これまで見てきた農村とは大変な違いで,アメリカのモールがそのまま移ってきたような光景だ。 私が暮らしていたDelhiのLaxumi NagarのV3Sモールとほぼ同じような構造だが,規模はこっちのほうがよほどデカイ。 みなさんは久しぶりにインド料理特有のスパイスと油から解放されて,ピザやベジバーガーやチャイニーズを楽しんだようだ。

2012/08/23

08:30
13:30
14:45
22:45

移動ばかりのStudy Tourであったが,これもインドの旅の特徴だ。

2012/08/24〜2012/08/26

23日夜にDelhiに到着するのが遅れてしまう可能性を考えて,24日は終日フリーにしておいた。 Delhi-Bhopal間の電車がこれほどまでに時間通りであることはセナさんにとっても想定外であった。 小生がこれまでに乗った寝台電車は,最低で3時間,長くて6時間の遅れがあった。 そういえば2009年1月にLABLプロジェクトに同行したときのJaipurからDelhiへの急行列車も, 昨年のDelhi-Haridwar間の急行列車もほぼ時間通りの運行であった。 このタイプの急行列車に遅れが少ないことを肝に銘じておこう。

今年の学生たちはえらく元気で,インドに来たからにはどうしてもガンガーを拝みたいということで, 急遽セナさんにHaridwarへの日帰り旅行をお願いした。 昨年の経験からしてHaridwarのガンガーの流れは激しく,最近の雨で流量が増えているガンガーに入ることに危険が伴う。 その点は十分注意したつもりではあるが,やはりとても心配である。 小生たちは,インドが初めての河井先生をOld Delhiに案内して,昼にKarimのランチを堪能し, 午後はNew DelhiとLaxumi NagarのモールV3Sでショッピングを楽しんだ。 学生たちには昨年からわれわれの運転手をしてくれているナドゥがついていてくれているので心配ないと思うが, いつセナさんからの電話でiPhoneが鳴らないかと気が気ではない。 連絡がないのはよい知らせだと言い聞かせ,そろそろ帰途の半分くらいであろうと思われる20:00頃にセナさんに電話してみると, すでに全員ホテルに戻っているということでやっと安心した。 翌日ナドゥがそっと話してくれたのだが,調子に乗りすぎた学生がヒンズー教の聖地のど真ん中で見せてはいけないモノを曝け出したそうだ。 はるばる遠くから何日間もかけて歩いて聖地へお参りに来て沐浴をしている女性たちと出家信者であるサードゥたちが, 引率のナドゥに対して相当な抗議をしたとのことだ。 本人にその意識はないのかもしれないが,「旅の恥は掻き捨て」というのはとても愚かしい行為で, 「郷に入っては郷に従え」くらいの方が旅は楽しめるのではないかと思う。

biogas 25日はアグラへ車で1日旅行だ。インド観光では必ず訪れるTaji MahalとAgra Fortの観光である。 Taji Mahalは人類が造り出した建造物の中でも壮大で壮麗なものの一つであることに間違いはなく, 何度観ても素晴らしい,と言っておこう。いや事実である。 今回の一つの目玉は,8月15日に開通した新しい高速道路Yamuna Expressを帰路に使ったことだ。 往路は6時にホテルを出発してAgraに入ったのは11時頃で5時間を要した。 Yamuna Expressは周知度が低いのかガラガラで,最高速度が大型車で60km/h,普通乗用車で100lm/hに制限されているものの, 逆走者や牛に行く手を遮られることもなく,ほとんどノンストップでDelhiまでおよそ3時間で戻ることが出来た。

AgraとDelhiの間に位置するMathraは,ヴィシュヌ神の化身であるクリシュナ神が生まれた土地とされ, Yamuna Expressからクリシュナの誕生を祝う祭りJanmashtamiに向かう大勢の信者の列を見ることができた(写真左)。 彼らは,食糧と調理器具を持参して何日間もかけて徒歩で聖地に向かうのだと運転手のナドゥが車を止めて説明してくれた。

20:00から慰労会の意味も込めてセナさんも含めて初めて全員そろっての夕食を楽しんだ。 セナさんに用意してもらったケーキで当日誕生日を迎えた学生のHappy Birthdayも同時にできてよかったと思う。

26日は,バラバラではあるが,疋田さんと小生を除いてDelhiを出発して行った。 とりあえず全員無事に日本に帰国したことがFacebookに報告された。 ここしばらくは,体調の変化に十分気をつけて,今回の経験をこれからの学生生活に活かしてほしいと思う。

参加者の感想

最後に参加者から一行感想を送ってもらいましたので,掲載させていただきます。

  • 初めてのインドも新保、疋田両先生と新保ゼミの皆さんとご一緒できて大変楽しめました。 インドについて本で勉強するだけでなく、その活力と問題点を肌で感じることができたのは、私にとって貴重な体験でした。 参加させていただいてありがとうございました。 体調を崩すことなく、インドの農村の人たちといち早く仲良くなれた新保ゼミの皆さんには感心しました。 (河井 啓希 先生,経済学部)
  • 『インドで人生観が変わる』という話しは私もよく耳にしますが、 「ああいう世界がある」ということを考えたことがなかった人(アジア未経験の欧米人に多い)か、 ガンジャのやりすぎでイカレてしまった人かどっちかでしょう。 「刺激を受ける」というあたりが健全でよろしいかと思います。 その点、今回のメンバーはみんな強かったですね。 適度に距離を取りながらそれぞれに受け入れている感じがしました。 今度は一人で行ってみてください。アフリカもいいですよ。 (疋田 浩一 先生,神戸夙川学院大学)
  • 今回のStudyTourでは、個人旅行ではなかなか行けないような農村を訪問することができ、とても貴重な体験になりました。 また、泥水の中を足首まで浸かりながら歩いたのはいい思い出です。 (清水 健吾,商学研究科M1)
  • 近年成長の著しいインドですが、都市部でさえ衛生面等で十分な整備がされていません. また農村も劣悪な環境にありますが,ソーラーランタンの導入などにより一歩ずつ改善に向かっている地域もあります. 自分の五感によって新興国の現状についての理解を深め,今後の支援のあり方について考えさせられる研修となりました. (布施 尚樹,商学研究科M1)
  • 様々な面からインドを堪能できた濃密な10日間でした。未整備な環境に悩まされるとともに、今後の伸びしろを身をもって体感しました。 (小野寺 将也,商学部3年)
  • インドという普通の人にとってはあまり行く機会のない国に訪問でき、 都市部から農村部まで見ることが出来たのはとてもワクワクするような体験ばかりでした。 インドの雰囲気は本を読むだけでは足りない現実感を感じさせてくれました。 今回先生方やゼミ生と一緒に行けたことでとても楽しかったです。ありがとうございました。 (和田 知之,商学部3年)
  • 発展途上国と呼ばれるインドの発展した面、まだまだ発展してない点等、自分の目で実際にそうした現状を知ることが出来ました。 お世話になった先生及びゼミ生ありがとうございました。 (日根 直人,商学部3年)
  • 日本という整備された国では経験できないような体験をすることが出来ました。 日本では当たり前だと思っていたことがインドでは全く違うということを身をもって体験できました。 (板谷 圭太,経済学部3年)
  • 貴重な経験を積むことができてよかったです。 普段私達は、電気、水といったものをなんの不便もなく得ることができています。 しかし、農村に至っては簡単に得ることができないことを目の当たりにしました。 自分たちとの生活の違い、どのようにしたら埋まるんだろうなどと考えるようになりました。 これからの自分の人生にとって本当に価値のあるスタディツアーでした。 ありがとうございました。 (五十嵐 庸輔,商学部3年)
  • 百聞は一見にしかずとはまさにこのことだと思いました。このような貴重な経験を体験させていただいたことを大変幸せに思います。 (池田 政臣,商学部3年)
  • 日本ではまずできない貴重な経験をさせてもらいました。 中でもボパールの農村地帯の子供たちの目が生き生きしていたのが印象的でした。 日本に帰ってきて死んだような目をしてる人を見るたび少し悲しくなります。 (秋月 博之,商学部3年)
  • 本当に多くの発見があった10日間でした。日常生活にはかなり戸惑わされましたが、今となっては良い思い出です。 現地で見聞きしたことを、最大限活用していきたいと思います。 (辻野 良,商学部3年)
  • 日本から今まで一歩も出たことのなかった自分にはすべてが新鮮で考え方が変わった貴重な体験をさせていただきました。 これからの自分の生き方を考えるにあたって確かなプラスになったと感じております。 (向井 陽介,商学部3年)
  • 僕の周りのインドに行った方々は皆、インドに行くと人生観が変わるほどの衝撃があるといいました。 実際インドに行くと、良くも悪くも全ての出来事が刺激となり、 特にインドの所々で感じた欲望剥き出しの雰囲気は今後の僕の生き方に活気を与えてくれることでしょう。 帰国後、徐々にインドカレーが恋しくなってきました笑 (黒崎 陸也,商学部3年)
  • 日本とは全く違う環境で、インフラであったり道路や衛生環境の差についた時はとても驚きました。 しかし、そんな中でもインドの人達はしっかりと毎日を生き抜いていて、 貧しい人たちでも笑顔で幸せそうに暮らしているように私には見えました。(実際どうかはわかりません) 日本に帰国してからインドに行ってよかったと考えたのと同時に幸せってなんだろうと考えました。 (石井 俊,経済学部3年)