慶應義塾大学 商学部・商学研究科

新保一成 研究室

開発と環境の経済分析...

南アジアにおける気候変動緩和政策とクリーン調理政策のトレードオフ

Policy trade-offs between climate mitigation and clean cook-stove access in South India

Colin Cameron, Shonali Pachauri, Narasimha D. Rao, David McCollum, Joeri Rogelj and Keywan Riahi, Nature Energy, Vol.1, January 2016.

論文の背景 - 家計大気汚染

国際保険機関は 家計大気汚染と健康について次の3つ事実をあげています。

  • およそ30億の人々が、家での調理や暖をとるために焚き火や簡単なコンロでバイオマス(木、動物の糞、穀物残渣)と石炭を燃やしている。
  • 400万人以上が固形物を燃料にした調理で発生する家計大気汚染を原因とする疾病で若くして命を落としている。 肺炎による5歳未満の子供の死亡の50%以上が、家計大気汚染で発生した粒子状物質(煤煙)を吸い込んだことによる。
  • 脳卒中、虚血性心疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)および肺癌などの非伝染性疾病による年間の380万の早死は、 家計大気汚染に曝されたことによる。
固形燃料を使う30億人は貧しく、低所得国あるいは中所得国に暮らしています。 家計大気汚染による430万の早死は主に南アジアとアフリカで生じ、そのうち南アジアが170万を数えます。 さらに、固形燃料の使用は所得と男女間の不平等を恒久化する原因にもなっています。 なぜならば、その使用者のほとんどが女性と子供で、燃料を収集するのに長い時間を犠牲にし、 その燃料を燃やすことによる健康被害に苛まれているからです。 この状況を打開するために、国連の潘基文事務総長による「万民のための持続可能なエネルギー(Sustainable Energy for Aall, SE4ALL)」 と持続可能な開発目標(SDGs)では、2030年までに現代的なエネルギーに全ての人がアクセスするという目標を掲げました。

気候政策とクリーン・エネルギー利用政策のシナリオ

論文では、クリーン調理をLPG、電力、ガス、灯油などのあらゆる非固形燃料による調理と定義します。 改良されたバイオマス調理コンロ(ICS)も使ってもクリーン調理とは考えません。 それは、ICSが健康に有意な便益をもたらすのかどうかいまだ不確実だからです。 分析にICSの導入を含めますが、伝統的なバイオマス調理コンロより少々便益がある程度に留めます。 論文では、様々な気候政策シナリオのもとで、クリーン調理の導入、利用政策の費用、 そして関連する健康状態の変化を分析するためにMESSAGE-Access家計燃料選択モデルを使います。