シンポジウムの趣旨
本シンポジウムは、慶應義塾大学商学部・商学研究科 Local Economy & Business Unitの活動の一環として、商学部と不動産三田会の共同主催で開催されました。商学部では、不動産三田会寄附講座「不動産学概論」を毎年秋学期に開講していますが、このシンポジウムは、学生対象の授業という枠を超え、学生と社会人がともに議論する場を作る実験として企画されたものです。
地方では、人口減少、高齢化、空き家の増加、地域経済の縮小などにより、地域コミュニティや暮らしの基盤を維持することが難しくなっています。一方で、自然、歴史、文化、食、農業、地場産業、観光資源など、地域固有の資産も数多く存在します。こうした地域資源を活かしながら、地域内で価値を生み出し、その成果を持続的に循環させる仕組みをどうつくるか。不動産業を単に土地や建物を扱う産業としてではなく、人材、雇用、資金、地場産業、観光資源、地域文化などを結びつける「地域活性化のプラットフォーマー」として位置づけ、その可能性を検討することがシンポジウムの中心的なテーマとなりました。
3社による事例紹介
当日は、大野由香子教授による問題提起の後、ミサワホーム株式会社(まちづくり事業本部開発事業部 山崎将仁氏)、株式会社フージャースコーポレーション(地域共創室 斎藤誠氏)、三菱地所・サイモン株式会社(経営企画部 杉山あやの氏)の3社から、それぞれ異なる切り口で地域活性化への取り組みが紹介されました。
ミサワホーム株式会社
「ASMACI」を中心に、医療、介護、子育て、防災、商業、住まいなどを組み合わせた生活拠点づくりが紹介されました。
株式会社フージャースコーポレーション
公園、住宅、商業施設を組み合わせた地域拠点の形成と、その持続的な運営のあり方が焦点となりました。
三菱地所・サイモン株式会社
プレミアム・アウトレットを核とした広域集客型の地域活性化がテーマとなりました。
ミサワホームの事例
ミサワホームの事例では、「ASMACI(アスマチ)」を中心に、医療、介護、子育て、防災、商業、住まいなどを組み合わせた生活拠点づくりが紹介されました。浦安、三島、門真市古川橋周辺などの事例を通じて示されたのは、地域に不足している機能をどのように組み合わせ、行政や医療機関、地域団体などと連携しながら拠点を形成していくかという論点でした。また、「ムーブコア」というフレキシブルな動産を活用した取り組みも紹介され、固定的な施設整備だけではない、柔軟な地域支援の可能性も示されました。
フージャースコーポレーションの事例
フージャースコーポレーションの事例では、公園、住宅、商業施設を組み合わせた地域拠点の形成と、その持続的な運営のあり方が焦点となりました。つくば竹園西公園では、マンション、公園、カフェ、芝生広場を一体的に整備し、地域住民や地元企業が参加する活動へつなげ、持続的な運営を目指す実践が紹介されました。また、堺市水賀池公園整備事業では、Park-PFIを活用し、役割を終えつつあった溜池の活用転換を図り、公園、商業施設、住宅を組み合わせながら維持管理費をまかなう収益構造の設計についても説明がありました。
三菱地所・サイモンの事例
三菱地所・サイモンの事例では、プレミアム・アウトレットを核とした広域集客型の地域活性化がテーマとなりました。ふかや花園プレミアム・アウトレットの開発においては、鉄道利用の促進と周辺地域への来訪者の回遊が主要な論点となりました。アウトレット単体の集客にとどまらず、交通、観光、地域食材、宿泊、スポーツなどを組み合わせて地域全体へ波及させる視点が共有され、自治体との協力体制や、自治体側による投資・資金回収の実績についても紹介がありました。
学生・社会人によるグループワーク
事例紹介の後には、学生と社会人が混成グループをつくり、各社から示された問いをもとにグループワークを実施しました。各グループは、地域活性化の視点を盛り込みながら、提案が生み出す価値、活用する地域資源、必要な地域連携、継続性を確保する仕組みについて検討しました。
ミサワホームの事例を担当したグループ
若者流出、子ども・子育て、教育、廃校活用、多世代交流などをめぐる提案が数多く生まれました。地方都市に大学や日本語学校、文化施設、スポーツ施設を組み合わせて若者や外国人の関係人口を増やす案、廃校をキッチンラボやフリースクール、地域図書館、多世代交流拠点として再活用する案など、発想は多岐にわたりました。生活拠点づくりを医療・福祉に限定せず、教育、体験、文化、移動、交流まで広げて考える視点が印象的でした。
フージャースの事例を担当したグループ
公園や未利用施設をどう活用し、地域主体で持続させるかをめぐって活発な議論が行われました。ため池、グラウンド、公園、未利用施設を都市農園、マルシェ、スポーツ、イベント施設、合宿施設、レンタル施設として活用する案のほか、子育て世帯向け住宅、住民カードによる利用区域の区分、利用料やイベント収益を活用した運営財源の確保などの提案も示されました。ボランティアだけに依存せず、収益や雇用を組み込む必要性を指摘する声もありました。
三菱地所・サイモンの事例を担当したグループ
鉄道利用の促進、手ぶらでの買い物・回遊、地域観光との接続、滞在時間の延長などが主要な論点となりました。秩父鉄道のSLを活用した来場促進、購入品配送やEC併用による手ぶら回遊、シャトルバス、レンタルサイクル、タクシー利用券、地域食材レストラン、農業体験、酒蔵連携、宿泊やスポーツイベントとの組み合わせなど、多様なアイデアが示されました。
パネルディスカッションでの応答
グループワークの結果は会場で共有され、その内容を踏まえて、モデレーターの中山善夫氏(株式会社ザイマックス総研)が論点を整理しながら各企業の登壇者にコメントを求めました。
ミサワホーム株式会社
山崎将仁氏は、学生の発想を新鮮と評価したうえで、住まいを提供することは結果にすぎず、重要なのは「なぜその町に住みたいのか」「なぜ住み続けたいのか」という動機を育てることだと指摘しました。地域で得られる体験やシビックプライドが定住や次世代への継承につながり、ひいては地域の税収やサービスの好循環にも結びつくという考えを示しました。
株式会社フージャースコーポレーション
斎藤誠氏は、子育て世代を念頭に置いた公園・住宅・商業施設の活用提案に対し、公園が子育て世代や高齢者を含む地域コミュニティの接点になりうると評価しました。良質な賃貸住宅を地域資源と接続させること、イベントやキッチンカー、スポーツ大会などを通じて収益を生み出すこと、地域の祭りや地元意識を活かして住民が関わりたくなる仕組みをつくることの重要性にも触れました。地域主体の運営には、楽しさや愛着だけでなく、持続可能な収益の仕組みが不可欠であることを強調しました。
三菱地所・サイモン株式会社
杉山あやの氏は、鉄道利用であれば飲食や周辺回遊を組み合わせやすく、購入品の配送サービスや周辺施設との連携にも可能性があると述べました。一方で、ターゲット設定や交通手段、地域全体での連携を中期的に考える必要があることも指摘しました。また、広域集客施設では来訪者の受け入れだけでなく、そこで働く人材の確保も重要な地域課題として議論に上がりました。
モデレーターの中山氏は、地方の不動産に関わる課題は、空き家、公共施設、商店街、交通、雇用など多岐にわたり、すぐに解決できるものではないこと、その一方で、そこには大きな社会的意義とビジネスチャンスがあると総括しました。また、地域課題への取り組みにおいては、企業の規模やネットワークによって実現できることにも違いがあり、多様な主体の連携が重要であるとの指摘もありました。
学生と実務家がともに考える場として
今回のシンポジウムは、企業による事例紹介を受けて、学生と社会人が同じテーブルを囲んで議論した点に大きな特徴があります。この形式により、若者の暮らし、SNSでの発信、アニメやアート、職業体験、手ぶらでの移動など、学生視点での多様な発想が披露された一方、社会人参加者の皆さまのアドバイスにより、収益化、運営主体、行政や地域との関係、継続性といった実務的な視点も加え、事業としての実現可能性も見据えた提案を考える場となりました。
本シンポジウムを通じて、不動産業による地域活性化は、施設や空間を整備することにとどまらず、どのように地域の新たな活動やつながりを生み出していくかが重要であることが、あらためて共有されました。地域に眠る資源を掘り起こし、人の流れをつくり、運営を担う主体を育て、継続的な収益構造を設計すること。その重要性が、企業事例とグループワークの双方から浮き彫りになったと言えるでしょう。さらに、IT技術の発展やデータ活用の広がりによって、地域間連携やサービス提供の形にも新たな可能性が生まれつつあることも伺えました。
不動産業は、空間をつくる産業であると同時に、地域内外の人・資源・活動を結びつけ、地域価値を持続的に循環させる産業でもあります。今回のシンポジウムは、地域課題の解決と民間事業としての持続性を両立し、不動産業が地域の未来に対して果たしうる新たな役割と可能性を考える貴重な機会となりました。
開催概要
産学連携シンポジウム 地域活性と不動産業の未来-地域活性を支えるプラットフォーマーとしての不動産業
- 主催
- 商学部・不動産三田会
- 開催日時
- 2026年5月14日(木)18:00〜19:45
- 会場
- 慶應義塾大学三田キャンパス 北別館
- コーディネーター
- 慶應義塾大学商学部:大野由香子・牛島利明
不動産三田会社会活動部会:岩田隆志(株式会社フェア・アンド・スクエア) - プログラム
-
- テーマ解説と問題提起:大野由香子
- 不動産企業による地域活性取り組み事例と課題:ミサワホーム株式会社、株式会社フージャースコーポレーション、三菱地所・サイモン株式会社
- グループワーク
- パネルディスカッション
- 総括:岩田隆志
- パネル
- モデレーター:中山善夫(株式会社ザイマックス総研)
パネリスト:山崎将仁(ミサワホーム株式会社)、斎藤誠(株式会社フージャースコーポレーション)、杉山あやの(三菱地所・サイモン株式会社) - 運営協力
- 商学部牛島利明研究会