今日は，学会出張のためのブラジル観光ビザを取るのに必要な銀行為替手形（bank draft）を作った．ビザ発行料金を現金で払うことができず，銀行で為替手形を作ってそれを大使館に渡し，大使館が銀行で現金化するという，なんとも手間のかかることをせねばならない．日本でブラジルのビザを取る場合には現金で支払うことができるから，インド特有のことらしい．

こちらでは，高額なものを買うときに現金で支払うことができないものが多いと聞く．典型的な例は自動車．現金で大金を銀行に預けるには，どのような類いの金であるかを申請し，その儲けに対して税金を支払ったことを証明できないと預けられないようだ．つまり，出所の分からない怪しげな金は銀行に預けられない．サラリーマンの給料は，こちらでも源泉徴収なので，銀行口座を持てば振込が可能である．納税義務をきちんと果たしていることを証明できる人のみ，銀行に預けてある現金を為替手形に変えて，それを持って自動車の代金にあてるのだそうだ．手間はかかるが，所得税を支払っているかどうかが怪しい自営業がそこらじゅうにいるので，納税義務を果たさせるためにもよい手段かもしれない．ビザの場合にも，観光ビザで入国して，そのまま不法就業して居着いてしまうことを避ける目的があるのかもしれない．

てなわけで，銀行為替手形を作らなければならないので，カルティックに付き合ってくれるようにお願いしておいた．もしも銀行口座がないと手形が作れないときには，カルティックの口座から作ってもらうという算段だ．一方，カルティックについては，学会出張の申請，認可，航空券，ビザの取得までTERIのプロセスに従わねばならず，というか出張の認可がおりれば後は全部事務方がやってくれる（ずいぶん贅沢な仕組みだ）．小生の場合は，外国人なのでビザの取得には本人が出頭しないといけないので，自分でやらねばならない．彼は，自分の手続きと同時に小生の手形もいっしょに作ってくれるように事務方にお願いしておいたらしのだが，１週間たっても何の音沙汰もない．

小生としては，６/20に日本に戻る前にブラジル・ビザの取得は済ませておきたいので，TERIの手続きはキャンセルしてもらって，IHCの中にあるState Bank of Hyderabirdで手形を発行してもらうことにした．カルティックに一緒に行ってもらって，ヒンディでいろいろ聞いてもらう．結論は，Rs. 3000という小額であれば（ビザ発行料金としては高い！），現金で手形を発行することができるというので，手続きの仕方だけ教えてもらって，あとは自分でやった．入口のところにいるオジさんが，どの窓口へ行けなどの指示をしてくれるのだが，いっさい英語がだめのようで，最初から最後までボディ・ラングエイジで指示してもらった．申請手続きをして，Eatopiaで昼食を取ってから，受取に行って，無事に為替を手にすることができた．明日は，ブラジル大使館に行ってビザの申請をしてこよう．

レイチェル・カーソン『沈黙の春』（青樹梁一訳，新潮文庫，rachel Carson, Silent Spring）およびジャレド・ダイアモンド『銃・病原菌・鉄』上巻（草思社）を読了． カーソンの『沈黙の春』は1962年に書かれた著作であるが，DDTに代表されるような殺虫剤に含まれる化学物質が環境と生態系の持続可能性をいかに破壊しているかを明らかにした最初の書で，長い間ベストセラーを続けている．恥ずかしながら，今回初めて読んだ．この書を読んだことが，生態学を志すきっかけになったという研究者も多いと聞いていたが，なるほどというのが実感だ．当時頻繁に使用されていた化学物質が持続可能性に及している影響に関する記述それ自体もセンセーショナルであるが，その実態を地道に調べ上げたカーソンと，その元になる情報を研究の立場から丹念に観測続けた科学者の姿勢にも学ぶところが多い．

一方，ダイアモンドの『銃・病原菌・鉄』の上巻では，人類が食用作物と家畜を育てることになる背景やそれらの伝播を各地域の生存した人種の能力の差に求めるのではなく，自然・環境条件で説明できるとするものである．自然・環境条件によって早くから動物を家畜化することを修得したヨーロッパ人は，早くから動物から病気をもらうことにもなり，その免疫を早くから保持することになった．スペインがアメリカ大陸を征服したのは，ヨーロッパ人のアメリカ大陸侵入によってヨーロッパ人が保有する病原菌があっという間にアメリカ大陸に広まったことが最大の要因だと説明している．

カーソンの『沈黙の春』の最終章では，昆虫の駆除などに化学物質に依存するのではなく，天敵の導入など生物および生態系のメカニズムを利用した方法が推奨されている．一方， ダイアモンドの『銃・病原菌・鉄』上巻のテーマの一つである人類による植物の作物化および動物の家畜化は，天敵を排除することによって可能であった．その意味で，この二つの書を偶然にも同時に読み進めたのは，おもしろかった．カーソンの取り上げた問題が，21世紀の現在どのようになっているのか，ぜひ知りたいところである．

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