Taj 多事
Taj 多事
2009
7時に朝食。ビュッフェには,北欧ならではのチーズとハムがふんだんに並び,それとパンが何種類もあり,これが実に美味しい。毎朝,朝食は定番で,手作りのオープンサンド。パンにレバー・ペーストをぬり,チーズ,ハム,野菜をのせて食べる。完全に癖になってしまいました。アメリカ人のために壁ぎわに,ベーコン,ソーセージ,スクランブル・エッグなどが並んでいる。普段の食習慣を変えられない人もいるようで,チーズやハムに目もくれずに,普通のトーストのパンやシリアルと山盛りのベーコンという人も結構いる。日本人の場合,ごはん,みそ汁,納豆,鮭なんてのは絶対に食べられないからしかたないのだけど,インド人のように持参する手もある。でも楽しめるのなら,現地のものを楽しむのが最も良い。
9時前にU先生とScandic Sydhavnenを出発。普通の路線バスがCOP15専用に割り当てられていて,参加者は無料で利用できる。もちろん一般の乗客は普段通りに料金ベースで利用できる。COP15の会場であるベラ・センター(Bella center)までは10分ほどで到着。とにかく寒い。会場の入り口は,なんだか人でごったえがえしていて,インドなみのカオス状態。締約国の政府関係者であることを示すPartiesというバッジをつけている人や国連関係者であるUNというバッジをつけている人も入るのに難儀している。30分ほども経ったころ,急にPartiesとUN以外で登録のために並んでいる人は,この列ではないので,南の方へ行けと警備にあたっている警察官が指示をだす。なんだよ,早くいってよ。
ということで,移動を開始するが,尻尾が全然見えない。おそらく150メートルから200メートルの長さの間に8列程度に人がぎっちり詰まって並んでいるのだ。嘘だろう!?先行して現地に入った藤沢のS先生や前半だけ参加した矢上のO先生の話では,登録はあっという間にできるということだったけど,COPが本格化する後半の初日ということで状況は全然違うらしい。
それでも正午ぐらいまではゆっくりと列は進み,ゲートまでは残り10メートルぐらいである。しかし,そこから全く動かなくなった。今日の気温は,最高気温1℃,最低気温0℃,平均気温0℃である。もう寒いなんてもんじゃない。靴の底から寒さが体中に浸透してくる。S先生に待ち合わせの時間に間に合いそうもないことを伝えるのに携帯からメールを試みるが,手が悴んでどうにもならない。やっとの思いでメールを打ち,送信したがつながらない。電話を使えることはU先生の携帯との間で確認したのだが,S先生の携帯は海外で使えないそうなので,インターネットのメールしか手段がない。ホテルと会場内での連絡は,インターネットで全く問題ないのだが,これは全くの想定外の事態だ。現代文明の恩恵に授かるためには,使うほうがきちんと準備しておかないとダメということだ。
そばにコーヒーの売店が出ていたので,小生が買いに行くことにした。体中の筋肉が収縮してしまってるようで,まるで正座をした後のように,うまく動けない。コーヒーの列は10名ほどなのに,これも全く進まない。いったい何なのよ。結局,コーヒーを買うのにも1時間かかってしまった。けど悲しいことに,U先生の場所は1ミリも動いていない・・・ただ,熱いコーヒーだけがほんの少しだけホッとした気分させてくれた(ホットコーヒーですから。そんなことホットけ・・・)。
届いてくる情報は,「6000人しか入れない会場にすでに8000人入っているから,退場した人数しか入場させない」とか「登録の機械が故障している」とか憶測交じりのものだけだ。正式なアナウンスは,3時ごろに国連職員と思われる人が拡声器で「6時までは登録作業を続けます。それ以上はできません。」というものだけだ。回りがうるさくてよく聞こえなかったので,前のアメリカ人のグループに確認すると,わかりやすい英語で教えてくれた。
もうゲートは目の前であるが,本当に1ミリも動かない。「登録作業を続ける」というけれども,1人としてゲートから入場する姿が見えない。外で待たされている人々からは「Let us in」,「Shame on you」という声があがった。「Shame on you(恥を知れ)」というのは,いったい誰に向けた言葉なのか。われわれの目に見えるのは警備の警官だけで,彼らにしても朝から寒い中働いている。そのうちに「Let us in」,「UN shame on you」になった。前のアメリカ人達も「It’s better」肩をすくめていた。
4時を過ぎた頃,脇の方からポツポツ入っていく人が見える。遅れてきたPartiesの人か何かだろうと思っていたら,前のアメリカ人のうちの1人が,ゲートのそばにいる警官に何か書類を見せて話し始めた。すると入場許可が出た。「どうやったんだ?」と聞くと「米国農務省関係のNGOのものだけど,これが農務省からの手紙だ,とかなんとかいい加減なこと言ったら,OKだって。I don’t know」という答え。事前情報で手紙だとかなんとかは要らないと言われていたので,小生は何も持ってきていないが,というか日本にいたわけではないので手に入れようもなかったのだけど,U先生は何かを持っていた。そこでU先生が「大学の代表だけど」とかなんとか言ってみたら,こちらもOK。実は,朝ここに着いたときに,このなが〜い列に並ぶ前に同じことを試みたのに,そのときにはなが〜い列に並べという返事だった。
この後の登録の実際を思い返すと,登録をしようとしている人は,UNのシステムにノミネートされていて,パスポートの名前を入力するとシステムから情報が抽出され,システム登録されている所属NGOとメールアドレスが口頭で答えたものと一致すれば次のステップに進むことができる。つまり,偶然に中に入れたわれわれと,外で並んでいる人に何らかの差があるわけではないのだ。中に入って並んで登録を待っているときに,国連職員が「今日の登録はみなさんで終わりです。みなさんについては,必ず登録を終了させます」と伝えに来た。職員としてはわれわれを安心させるつもりの発言であったと思うのだが,小生の後ろに並んでいた南アフリカの女性が「外に待っている何百人もの人はどうなるの?この寒さの中を何の情報もなく待たせておいて,何か言うことはないの!」と食ってかかった。誰もが持っていた感情だろうと思う。国連職員は,聞かなかったように無視して立ち去った。
中へ入ったものの建物の中へはなかなか入れない。後ろから,報道関連の人たちが来て,どんどん中へ入っていく。後からわかったことだが,この時間帯は毎日のプレス発表の時間で,プレスのセキュリティ・チェックを優先させていたのだ。この手の説明が一切ないので,ただ待たされる方は不安を募らせるだけで,不安が不満に変わっていくのだ。
やっと中に入れたのは5時過ぎ。背中にしょっていたリュックも降ろす。体がとろける感じだ。この後の作業はスムーズで,6時過ぎには晴れてバッジを首から下げて会場に入ることができた。本当によく耐えたと思う。今日中に登録を済ませないと,明日からはセカンダリー・カードがないと会場にも入れないと伝えられていたから,なんとしてもという気持ちもあったし,せっかく来させてもらっているのだからという気持ちもあった。気温0℃,太陽は全く顔を出さない,小雪がちらつく,体が思うように動かない,食べ物もない, 普通ならとっくに諦めてる。だけど,どうしてこういう状態に1000人近くの人々を放っておけるのだろう。実は翌日からは雪模様であった。もし雪や雨が降れば,凍えて体調を崩す者が多数出たにちがいない。 温暖化の会議で凍え死んじゃ洒落にもならない。 国連だかデンマーク政府だか知らないけど,これでよく途上国を援助するなんて言えるもんだ。だからいつも言葉だけで実行が伴わないと批判されるのだ。
さて,まずはセカンダリー・カードのことを確かめにRTCCのブースを訪れると,メールをくれたAnnaさんが対応してくれた。状況を説明すると,「これまでのCOPでこんなことはなかった。本当に申し訳ない」と謝っていたが,悪いのはAnnaさんでもRTCCでもない。セカンダリー・カードはすでにS先生が持っていったということなので,明日会場に入るまでにS先生と会わなければならない。それと明日になってもセカンダリー・カードを取りに来ない団体があれば慶應に追加で1枚提供するので,明日の午後来てくれということだ。もしそうなら全員が会場に入れるので大変ありがたい。すぐそばにあったカフェでケーキと飲み物を取りながら,S先生にラップトップでメールを打つ。会場のどこでもWiFiでネットワークが使えるので助かる。
せっかく入れたので少しは中身を見てみることにした。ちょうどAWG(Ad hoc Working Group)のLCA(Long term cooperative action)の会合と引き続いてKP(Kyoto protocol)の会合が開始されたので,その会議場に入った。このAWGの非公式会合は,報道陣がシャットアウトされるので,まさにその内容は会場にいる者しかわからない。交渉過程に興味のある研究者なら絶対に逃したくない会合である。小生は交渉過程自体に興味があるわけではないが,そんな者でもなるほどと思いながら関心を持って見ることができる。ドラフトの1文,1語句をその場で議論しながら改訂していくのである。ここでも先進国と開発途上国の考え方の違いは明らかで,先進国側が改訂案を出すと,途上国が削除しろ,注に回せ,括弧に入れろと別案を出してくる。議長は,これを持ち帰って,翌日の会合に提案し直すという過程が毎日繰り返される。実はCOP15の大失敗は,こういう作業過程を無視して全体会合の議長国であるデンマークが独自案を全体会合に提出したり,一部の国だけの案が全体会合に提出されたことにある。
このAWGの非公式会合にS先生も来ていたので,セカンダリー・カードも無事入手することができた。S先生は,環境問題の専門家ではないのだが,twitterという新しいインターネットのコミュニケーション・ツールを通じてCOP15を専門家でない人たちにいかに伝えられるかということに興味があるようで,特に報道陣がシャットアウトされる非公式会合を英語から日本語に訳してtwitterで実況中継をしている。非公式会合は,毎日このような夜遅くに開始されるので,明日のセカンダリー・カードはU先生と小生が持って入り,夜にバトンタッチすることにした。
U先生と小生は,もうヘロヘロという感じで,10時半ごろAWG会合の途中で抜け出してホテルに戻った。すでに11時を回っていたが,U先生とホテルで夕食を取った。インドではまず食べることができない豚肉を食そうと骨付きのなんちゃらを頼んだら,とてつもないデカさにビックリ。なんだか,漫画に出てくるような骨付きステーキそのものという感じ。警備の警察官がデカいなーと眺めていたが,こんなもの毎日食べてるんじゃ納得。おまけに生ビールを頼んだときに「Big?」と聞かれたので,何も考えず「Yes」と答えたのが大失敗,デカい・・・ビールだけなら何の問題もないのだけど,この豚肉をやっつけないとと思うと後悔する。それでもお味の方はなかなかで,なんとか平らげました。明日は,U先生と昼に会うことにして,それぞれの部屋に戻った。しっかり温まって寝ることにしよう。
12/14のデリーの天気 最高気温23℃、最低気温11℃、平均気温17℃
12/14の東京の天気 最高気温10℃、最低気温8℃、平均気温9℃
12/14のコペンハーゲンの天気 最高気温0℃、最低気温1℃、平均気温0℃
COP15ー凍え死んじゃうよ
09/12/14
COP15が開催されたコペンハーゲンのベラ・センター(Bella center)の入り口近くに展示されていたCO21トンが詰まった風船。直径10メートルほどだったでしょうか。なるほどこんなものかと実感できます。
登録に並んだ人の列。ここからゲートまでは150メートルはあると思います。そして10列ほどありますから,全然進みません。ゲートから10メートルほどのところで微動だにしなくなりました。この日のコペンハーゲンの気温は,最高気温1℃,最低気温0℃,平均気温0℃でした。
平均気温0℃の中,7時間並んで手に入れたバッジ。なんなんでしょうね・・・温暖化の会議で凍え死んでは洒落にもなりません。