Taj 多事
Taj 多事
2009
今日はアグラ(Agra)へ車で日帰り旅行だ。元旦にタージ・マハル(Taj Mahal)詣でとうわけだが、2009年の元旦という雰囲気は微塵もない。順調に行けば片道4時間の行程だ。昨日も目一杯のスケジュールだったので、みなさんお疲れのようで、出発30分前の5時半に全員起床。朝食は、デリーとアグラの間にあるマトゥラ(Mathura)のマクドナルドでとることになっているので、身支度を整えて即家を出る。車はMother Dairy Rd.で待っていて、そこまでゴニ・トラベル(Goni Travel)社長のセナさんも三男を抱っこして同行し、運転手とセナさんが最後の打ち合わせをして出発だ。
出発したときには気がつかなかったが、幹線道路にのるとものすごい濃霧だ。正直言って、全然前が見えない。なんでこんな霧の中を運転できるんだ、というより走っていること自体が信じられない。それも常に時速60Km程度のスピードで走っている。交通ルールはインド流である。歩行者は、車が見えなくて来ていないと思うのか突然飛び出すし、この霧の中を反対方向に走って来る大馬鹿者までいる。この車のスピードより遅い車やリキシャが突然前に現れる。もう気が気ではない。ときどき視界が晴れるが、9割は視界30m以下の霧の中を走る。緊張の中、2時間半ほど走ってマトゥラのマクドナルドに到着。よくここにマクドナルドがあることわかったなというのが助手席にいた感想。
インドのハンバーガーには辟易しているので、ベジタリアンメニューを試してみる。いわゆるマクドナルドの巻物のメニューだが、パニール(Paneer、チーズ)と炒めたキャベツとタマネギを柔らかめのチャパティで巻いた感じで、味付けもマサラ風味で、限りなくインド料理に近い食べ物で、悪くない。でもわざわざこれを食べにマックに来ようというほどのものじゃない。三男はここでも人気者で、店員に抱っこで拉致されて、厨房の奥から風船を持って出て来た。三男がこのように可愛がられると、二男はいつも三男ばかりと不服顔だ。でも君を抱っこしろといわれてもできませんから...
やられたー第5弾
マクドナルドを出発してアグラに入るとやっと霧が晴れてきた。ラッキー。予定通り10時過ぎにタージ・マハルの駐車場にに到着。外はとても暖かく、霧も全く気にならない。ムンバイの11.26以降、有名な観光地では警備が厳しくなっているので、必要なもの以外は全て車において行く。環境に配慮して、車はタージ・マハルからかなり離れたところまでしか入れず、駐車場からは人力車か電気自動車に乗り換える。定期的に電気で走るバスも駐車場とタージ・マハルの間を往復しているので、そのバスを利用することにした。入場券売り場までは、およそ5分。バスを降りる寸前に、背後から「Four?」と札束を手にしたオジさんに声をかけられる。料金の徴収だ。確か無料と聞いたように思ったのだが自信がない。セナさんから聞いた情報をメモに書いたのだが、車に置いてきてしまった。「Five」と答えると「20 rupees」と言う。一番前に座ってしまったので、他の客が払ったのかどうかもわからない。しかたなくRs. 20を支払う。帰りのバスに乗るときに気がついたのだが、インド人は一人Rs. 5で外国人は無料と書いてある。小生はときどきインド人に間違えられるようだが、家族全部で間違えられるとは思えないし、そもそもインド人に英語で話しかけるわけがない。あのオジさんは正規の集金人かもしれないが、われわれのRs. 20は彼のポケットに入ったままにちがいない。でも5x5は25ですけど。
タージ・マハルへ入るには、Rs. 500のアグラ観光共通券とタージ・マハルへの入場料Rs. 250がかかる。外国人登録証が使えるかどうか聞いてみたがダメだった。15歳以下の子供は無料。入場券売場のすぐ脇で、暮廟に入る時のシューズ・カバーとミネラル水1リットルのペットボトルをもらえる。長男と二男のシューズ・カバーも頂戴と言ったら、三男の分も含めてRs. 20で売ってくれた。三男には、シューズ・カバーは大きすぎるので、あらかじめ厚手の靴下を準備しておいたけど。
バスを降りてから入場券売場そして入口にかけて、「ガイドはいらんかえー」というオジさんやオニイさんがしつこくつきまとってくるが、「はじめてじゃないから、いらない」とオウムのように繰り返し振り切る。ガイドだけではなく、絵葉書やら、Tシャツやら、何やらを売りに来る少年もたくさんいる。たいてい変な日本語で「500ルピー」とか何とか言って寄ってくる。子供たちが興味を示してしまうとやっかいなので、無視しろ、しつこい場合は「ベラスミダ」と言って韓国人のふりをしろと冗談で言ったら、本当にやっている。韓国のみなさん、ごめんさなさい。
入口で身体検査を受けて、ちょっと歩いて赤砂岩の門をくぐると、総白大理石造りの壮大な墓廟が待ち構えている。暮廟から門までの水路には水が張られて、暮廟を鏡のように映している。2年前に訪れたときには、この水がなくて残念だったが、今回は絶好のシャッター・チャンスである。ところが、タージ・マハルの中には公認の写真屋さんがたくさんいて、正面の絶好のポジションを占拠している。
みんな小型のデジカメを持っていても、一眼レフのカメラで撮ってもらいたいようだ。どこかのカメラ・メーカーの談話で出ていたが、最近のポータブル・デジカメは、一眼レフの機能を凌駕しようとしているが、一眼レフの方がよい写真が撮れるという迷信のせいで、特に欧米を中心に販売が伸びないと嘆いていた。確かに、こういう場所で記念撮影をするのにポータブル・デジカメを持った写真屋さんに声をかけられても、ごめんだよと言いたくなるかもしれない。
というわけで、正面のちょっと脇から写真撮影。この地では、日本でよく見かけるように、カメラを他人に預けて自分たちの写真を撮ってもらうのは御法度らしい。預けた途端にダッシュされてしまうことがよくあるらしい。日本人観光客に頼めばよいのであるが、そう都合良く見つかるわけもない。残念ながら家族全員で写った写真を撮ることはできなかった。
門からまっすぐ進んで暮廟に向かう。暮廟内は土足禁止なので、靴の上からシューズ・カバーを履く。よく知られてるように、タージ・マハルは、ムガル帝国第5代皇帝シャー・ジャハーンが、亡くなった妻ムムターズのために22年(1632年ー1653年)の歳月をかけて建造した暮廟で、代表的なインド・イスラム建築だ。建材はインド各地から1000頭以上の象を使って運ばれたといわれ、特に大理石はラジャスタンで採掘されたものだといわれている。また、インドのみならずペルシャ、アラブ、ヨーロッパから集められた2万人以上の職人が建築に従事したようだ。
暮廟は東西南北どの方向から見てもシンメトリーに造られていて、大理石の1枚1枚のタイルの模様もまたシンメトリーという幾何学的美しさを誇っている。これもよく知られた話であるが、シャー・ジャハーンは自信の暮廟をヤムナ河の対岸に黒の大理石で造り、二つの暮廟を大理石の橋で繋ぐことを夢見ていた。しかし、晩年に息子のアウラングゼーブ帝によってアグラ城に幽閉され、その夢は叶わなかった。結局、シャー・ジャハーンの遺体を入れた棺は、タージ・マハルの暮廟の中央に位置するムムターズの棺の横に安置され、自信の棺が唯一タージ・マハルのシンメトリーを崩すことになってしまったのだ。このアシンメトリーなシャー・ジャハーンの棺は、なんとも物悲しく見えるのである。
棺が安置されているところを出て、ヤムナ河を背景に写真撮影などをしていると、三男が尿意をもよおおす。子連れだと、こういうことはやむを得ない。いかなインド人でも、体内のものを世界遺産に向けては放出しないようだ。門の傍のトイレに急ぐ。暮廟から門までは結構な距離があり、もう一度暮廟の傍まで戻るが、運転手と待ち合わせた時間が迫ってきたので、タージ・マハルを後にする。
駐車場までは、往きと同様に電気バス。今度は料金を確かめたので、無駄な金を支払うことはない。バスに乗るまでの間、土産売りの少年達がうるさい。韓国人の女性二人連れが、少年達に言われるままに、商品を確かめもせずに何から何まで買うものだから、物売りがどんどん集まってきて大騒ぎだ。韓国も裕福になったという証拠だろうか。自分たちが気にいっているのなら何を買おうがかまいませんが。子供たちが「ベラスミダ」を口に出さないで一安心。
昼食にトライデント・ホテルに向かう。ガイドブックに出ている食堂にしようかと思ったのだが、セナさんからホテルの方が安心だからと勧められた。というのは、2000年に運転手とレストランと医者が共謀して医療費・保険金詐欺を画策し、ヨーロッパからの旅行客二人が犠牲なったという事件があったからで、そろそろほとぼりが覚めたころで、また再発するに違いないという噂が流れている。事件は、運転手が外国人観光客をレストランに連れて行く、レストランはその観光客の食事に毒を盛る。医者に連れて行き食中毒だと診断させ、医療費と保険金を騙し取るという手口だ。こんなことで殺されちまってはかなわない。
運転手が、バックマージンのもらえる食堂に連れて行こうとするかもしれないから、トライデントに予約を入れてあるという偽情報をセナさんから運転手に伝えてあった。ところが、11.26以降、この手の高級ホテルの―特にトライデントはムンバイで被害に遭ったホテルであるから―セキュリティ・チェックが非常に厳しい。門は閉ざされ、中に入ろうとする車のエンジンルーム、トランクは全てチェックされ、車体の下に鏡を入れて爆弾がないかどうかチェックする。そして、ほんとうに予約がないと入れないなくなってしまったのである。急遽セナさんに電話を入れ、運転手さんと話をしてもらい、安心できるレストランに連れっていってもらった。
レストランでは、この人数だとこれがお得ですと、タンドーリ・チキン、チキン、マトンそしてベジのカレー2種類とサフラン・ライス、それに何種類かのナーン(なんちゃって)のセットを勧められた。いつものようにチキンばかりのメニューにしても値段は変わらないし、スパイシーでなく料理できるというので、それを注文。
やられたー第6弾
料理を待つ間に初老の男性が店内に入って来て、正面の壁にかかっている神様の写真にご挨拶じゃなくてお祈りしている。アタッシュケースをあけて何やら取り出し、最後にシルクハットをかぶる。まさか!シルクハットのオジさんは、真っ先にわれわれのテーブルに来て、首にかけている白いロープをはずすと、ふにゃふにゃのロープを気合いもろともピンッと真っ直ぐに棒のようにする。ここで断らないとオジさんの思うツボだけど、すでに子供たちは手品観賞モードのスイッチがオンの状態で、「おー」と歓声をあげている。子供たちの歓声に調子にのったオジさんは、目の錯覚を利用して赤と白のオブジェクトの位置を交換すると大きさが変化して見える手品、箱に入れた鉛筆を折って元に戻す手品、カードの山からどれを抜いても同じカードになる手品、とマジック・ショーを公演してしまった。最初の二つの手品は道具さえあれば、誰にできる手品で、オジさんは種明かしまで披露する。なぜかといえば、その道具は二つでRs. 150。300円で楽しませてもらったのだから、安いものか...
マジック・ショーが終わると同時に、待ってましたと言わんばかりに食事がサーブされる。出て来たのは巨大なノンベジタリアン・ターリだ。大きな皿というよりはお盆の中央に、富士山のようにサフラン・ライスが盛られ、その回りを4種のカレーが囲んでいる。それにてんこ盛りのナーン。食べる前から、絶対に全部は食べられませんという量。ノンベジメニューは妻と子供たちにお任せして、小生は別に頼んだビールを飲みながら、子供たちの食べそうにないベジメニューを中心に食べる。ちょっとやそっとじゃ、お盆の中は減ったように見えない。おそらく大人6人ぐらいで丁度良い量じゃないだろうか。お腹一杯にして、アグラ城へ向かう。
アグラ城(Agra Fort)とタージ・マハルは、車で十分程の距離。入場券売り場には長い列ができている。ここでも例のごとく「いいガイドしまっせー」と寄ってくるので「はじめてじゃないから、いらい」を連発して追い払う。入場料は、タージ・マハルと同じでRs. 250。ただし、Rs. 500の共通券がいる。ここも15歳以下の子供は無料。
アグラ城は、ムガル帝国のデリーからアグラへの遷都にともなって第3代皇帝アクバルによって建てられ1573年に完成した。タージ・マハルを建てた第5代皇帝シャー・ジャハーンまでの3代の皇帝の居城である。ちなみにアクバルが父フマユーン(第2代皇帝)の墓としてデリーに建てたフマユーン廟(Humayun Tomb)は、タージ・マハルの原形と言われている。シャー・ジャハーンとムムターズの間にできた4人の皇子たちは、帝の座を争ってお互いにお互いを殺し合う。最後に生き残った第3皇子アウラングゼーブは、父をアグラ城に幽閉し、自らが第6代皇帝となりデリーに戻った。シャー・ジャハーンは、タージ・マハルの見える城内の「囚われの塔」(ムサンマン・ブルジュ)から、毎日タージ・マハルを眺めては涙を流して過ごしたと伝えられている。完全には晴れきらない霧がレースのカーテンのようにタージ・マハルを霞ませて、シャー・ジャハーンの見たタージ・マハルもこのように映ったのではないだろうかと思わせるような光景である。
出口に近いところで、またもや三男がインド人の若者グループに抱っこ拉致される。今度ばかりは、あまりに急に拉致されたので、いまにも泣き出しそうである。必死に堪えて何枚かの写真撮影に応じたが、堪えきれずに「お母さん抱っこ」。
セナさんが、運転手さんに変な店には連れて行くなと念を押しておいてくれたので、そのまま帰途につく。2年前に来たときには、運転手に大理石細工の店に連れ込まれ、これが買うまで外に出さないとんでもない店で、大変嫌な思いをしたことがある。アグラは、そういうことでも悪名高き観光地だ。帰途は、霧がないので往きのような緊張感がない。運転手さんに悪いので、必死に起きていようとするのだが、自然と上下の瞼がくっついてしまう。月に何度くらいアグラに来るのかと運転手さんに尋ねると、「ほとんど毎日さ。アグラばかりじゃなくて、毎日ジャイプルやラジャスターンへ行くんだ。この2、3ヶ月の観光シーズンの間は大変だ。でもアグラ日帰りはきついだろう」、「You too」、「そうだ」、申し訳ありません...
途中混雑で遅くなることが危惧されたが、ほぼ予定通り4時間でデリーに到着。時刻は夜8時。今日も、ながーい一日でした。
そうそう、家に戻って、もっぱら子供たちが撮っていたデジタルカメラがないことが発覚。セナさんから運転手さんに連絡してもらって、車の中に落としていないかどうか確認してもらいましたが、結局見つかりません。残念。
1/1のアグラの天気 最高気温17℃、最低気温7℃、平均気温12℃
Taj Mahal
09/01/01
タージ・マハルの暮廟を正面から見たところ。前からみても、横からみても、後ろから見ても、左右対称です。門へと続く水路に映し出される暮廟が何とも言えません。
暮廟に埋め込まれた大理石細工の一つ一つも左右対称です。実に見事な建造物です。これが一個人のお墓だなんて信じられません。
アグラ城から見たタージ・マハル。霧がレースのカーテンのようにかかって幻想的な雰囲気を醸し出しています。 息子にアグラ城に幽閉されたシャー・ジャハーンは、毎日タージ・マハルを眺めては涙を流して過ごしたと伝えられています。涙に霞んだタージ・マハルはこんな風に見えたのでしょうか。