早川書房の児童書

正しい魔女のつくりかた 正しい魔女(まじょ)のつくりかた
WHISPERING TO WITCHES
アンナ・デイル/岡本さゆり訳
本体価格 \1,600
2004年11月刊

クリスマス直前に見習い魔女と知りあったことから、主人公の少年が魔法界をゆるがす大事件(じけん)にまきこまれていく。なぞとき、緻密(ちみつ)な構成、どんでんがえしなど、ひじょうによく練られた作品だが、それにくわえてさまざまな種類の楽しい魔法が全篇(ぜんぺん)にちりばめられ、ユーモアたっぷりのクリスマス・ファンタジイとなっている。

Illustration: ミギー


本の紹介

 12才のジョーは、父親と2人でロンドンにくらしている。だがクリスマス直前の12月20日、スコットランドに住む大おばが急病で倒(たお)れ、父親は1人でおみまいに行くことに。ジョーは、再婚(さいこん)してカンタベリーに住む母親のもとへ行かされる。
 クリスマスの予定がすっかりくるってしまい、むっつりしたまま列車に乗りこんだジョーは、3人の乗客といっしょになった客車のなかで、へんてこなできごとに遭遇(そうぐう)する。女性のハンドバッグからヘビが顔を出したかと思ったら、電気が消えて真っ暗になり、それから目もくらむような閃光(せんこう)が走ったのだ。おじけづいたジョーは、あわてるあまりちがう駅で列車をおりてしまう。
 そこは、カンタベリーの8キロ手前のスタブル・エンドという駅だった。つぎの列車は数時間後、バスもタクシーもいない。電話も雪のため不通だ。ジョーはとほうにくれるが、駅員の厚意(こうい)でわすれものの大人用三輪車をゆずってもらい、雪道をこいでカンタベリーをめざす。ところがそのとちゅう、三輪車がとつぜん、ジョーを乗せたまま暴走(ぼうそう)をはじめる。やがてつっこんでいった先は、なんと魔女たちがくらす家。魔法で三輪車に変えられた魔女のほうきが、ひたすら家をめざしていたのだった。年かさの魔女たちは突如(とつじょ)あらわれたジョーにめいわくそうな顔だが、ただ1人、いちばんの下っぱでジョーとおなじ年ごろの少女、トゥイギーだけは親切にしてくれる。
 ジョーが列車のなかで出くわした光景のことを話すと、トゥイギーは、それは魔法にちがいないと断定(だんてい)する。なにが起こったのか知りたいトゥイギーは、ジョーをつれて調査(ちょうさ)に動きはじめる。やがてあきらかになったのは、客車にいた3人はみな魔女で、暗やみのなかで魔法をはなちあって戦っていたこと、その結果勝った1人が、重要書類(しょるい)をうばい取ったらしいことだった。その重要書類とは、魔法界のバイブルともいえる魔法書『メイベルの本』の失われたページ。あまりに強力で危険(きけん)な魔法について書かれていたことから、著者みずからがやぶりすてたといわれる、まぼろしのページが発見されていたのだ。これが悪者の手にわたれば、どんなおそろしいことが起こるかわかったものではない。トゥイギーとジョーはなんとか取りかえそうと奮闘(ふんとう)するが、事態(じたい)は二転三転し……

 木の葉に見えないインクで文字を書いて飛ばす〈葉書〉、初心者がほうきにぬる〈飛行軟膏(なんこう)〉など、ネーミングもおもしろいかずかずの魔法が魅力的(みりょくてき)。魔女としては半人前のトゥイギーと、魔力すら持たないジョーというあぶなっかしいコンビが、友情を深めながらすこしずつなぞをときあかしていく。クリスマスらしい描写(びょうしゃ)もおりこみながら、すっきりと一件落着(いっけんらくちゃく)するラストシーンまで、一気に読ませる作品。

著者紹介
アンナ・デイル

1971年、イギリス生まれ。サフォーク州、エセックス州などで少女時代をすごす。その後ケント大学に入学し、本書の舞台(ぶたい)であるカンタベリーで学生生活を送った。卒業後は書店員としてはたらきながら、大学院で創作(児童文学)を学び、修士号取得のためにはじめて書いた小説が本書だという。これがイギリスの大手出版社の目にとまり、2004年、作家としてデビューすることとなった。

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出典:早川書房 http://www.hayakawa-online.co.jp/harinezumi/hedge27.html