深化する日本の経営

   ―社会・トップ・戦略・組織― Revisiting Japanese Management

はしがき


 21世紀はアジアの時代と言われている。中国の躍進も米国のTPP*への積極的参加も、アジア経済に大きな影響を与えている。 一方、日本経済・日本企業の衰退が叫ばれ始めて久しい。毎年、スイスのIMDが発表する世界競争力ランキングではかつて1位で あった時代**もあったが2011年版では26位。日本国債の格付けも、Moody’s やS&Pでは最高ランクAaa とAAAから格下げされて Aa3とAA−、国内のR&IでもついにAA+になってしまった***。東日本大震災、超円高、そしてTPP問題など、日本経済・日本企業が 対処すべき課題は山積している。

* 環太平洋パートナーシップ協定、Trans Pacific Partnership。
** 1993年まで8年連続1位。『日本経済新聞』1994年9月7日。
*** 2012年2月現在。Moody’sは1998年11月に、S&Pは2001年2月に、R&Iは2011年12月に最高ランクからの格下げ開始。

 20世紀は高度成長期やバブル期を中心に基本的な成長経済であったが、21世紀には低成長・ゼロ成長となり、従来の経営方法には 大きな見直しが求められている。例えば2011年のオリンパス・大王製紙の不祥事に際しても、日本の企業経営の透明性に疑問が 投げかけられ、社外取締役義務化の試案も出ている。義務化の必要があるか否かを考える上で、ガバナンスに関する理論的な議論、 現実問題としての人材供給の可能性や現場での経営の自由度の問題など、検討すべき課題は数限りない。日本の経営の国際的な 信頼性を取り戻すためになすべきことは実に多いと言える。しかしその際、過去をすべて否定するのではなく、過去をしっかりと理解し、 何を捨て何を残すべきかを考え、将来の発展への礎としたい。本書は日本企業を対象とした経営学の入門書であるが、このような筆者らの 思いが『深化する日本の経営』というタイトルと、カバーデザインにあるRevisiting Japanese Managementというフレーズに込められて いる。

 サブタイトルの「社会・トップ・戦略・組織」は、本書の構成を表すと共に、本書が4人の研究者によるコラボレーションによって できあがったことを示している。筆者ら4人は共に、故・清水龍瑩慶應義塾大学名誉教授のゼミに学んだ。それ故、現在はそれぞれ 異なる大学で異なる専門を研究領域としているが、基本的な経営学の考え方は共通している。4人は清水先生の書かれたテキストを ベースに、別々の学生を相手に経営学の講義を行ない、各々の研究を深めると同時に講義ノートを書きためてきた。本書は20世紀の 日本の経営に関する実証研究第一人者であった清水先生の考え方をベースに、4人が進めた各研究分野の視点から21世紀の日本企業の 経営を模索したものである。それ故「社会・トップ・戦略・組織」という4人それぞれの専門領域(の一部)から、日本企業の経営を 実学的に捉え、日本の経営の特徴を全面的に再検討する構成になっている。

 形式的には4人で分担して執筆を開始したが、それをネット上に載せ、皆がそれを読み、さらには書き込みも自由に行なう、という ルールで進行させてきた****。そのような意味では、分担執筆ではない、真の意味での共著となった。巻末の執筆者紹介の“主担当” というのはこのような経緯を示している。お互いの信頼関係をベースに各自の原稿に対して自由に加筆訂正できたのも、すべては 4人に基本的な考え方を叩きこんで下さった清水先生のお蔭である。ここに記して感謝したい。また、千倉書房の関口聡編集部長には 企画段階から最終段階の合宿に至るまで全面的なバックアップをいただいた。厚く御礼申し上げたい。

**** 素晴らしい環境を無料で提供して下さった@Wiki(http://atwiki.jp/l/)に感謝致します。

 本書が21世紀の日本経済・日本企業の発展を担う学生諸君の経営学学習のスタート台になってくれれば、筆者たちのこれに過ぎる 歓びはない。

2012年初春
三田山上にて

岡 本 大 輔・古 川 靖 洋・佐 藤 和・馬 塲 杉 夫


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