東証時価総額上位200社において、簿価が時価総額に占める割合は70%を割っている。 米国においては1950年代に同様な状況であったが、1970年代には50%を割り、さらに90 年代には30%になったと言われている。企業を評価する場合、数字に表わせる要因だけ でなく、数字に表わせない要因が大きなウエイトを占めていることは明らかである。そ の実態を解明することは困難を極めるが、その中で知識が重要であることは論を俟たない。
本書は企業を評価する方法の一つとして、知識をAI(Artificial Intelligence、人工知能) により評価しようとする試みである。企業評価は、良い企業とは何かを考える学問であ るが、それは視点の研究と手法の研究に分けることができる。前者は何をもって評価基 準とするかという評価内容・評価視点の研究であり、いわばWHATの研究である。後者は それをいかにして評価するかという分析方法・分析手法の研究であり、いわばHOWの研 究である。本書は、このような考え方に基づいてまとめた前著『企業評価の視点と手法』 の、HOWに関する続編という位置づけになっている。ただし単なる手法の解説書になら ぬよう、全編にわたって計量経営学(managemetrics)のアプローチを採用し、それぞれ の手法が企業評価においてどのように適用されるかという実例を考慮し、問題点を提起し、 対処策を示す、という形式を貫いている。
本書の各章は既に論文の形で発表されたものがベースになっている。初出一覧は以下の 拙稿である。第1章[1992,a,c]、第2章[1995](古川靖洋氏との共同論文)、第3章[2000,a,b] (古川靖洋氏・大柳康司氏との共同論文)、第4章[2002]、第5章[2003]。中にはかな り古い論文も混ざっているので、本書への収録にあたりできる限りの加筆訂正を行なった。
本書をまとめるにあたって、日頃から多くの方々にご指導をいただいてきた。まず学生 時代から四半世紀にわたって物の考え方、勉強の仕方から論文の書き方まで、懇切丁寧な ご指導をいただき、常に貴重な助言をしてくださった恩師・慶應義塾大学名誉教授・清水 龍瑩先生に深く感謝申し上げたい。本書の構想段階でもいろいろアドバイスを頂戴したが、 本書刊行を前に先生が逝去されてしまったのは真に残念である。ご冥福をお祈りしたい。 慶應義塾大学商学部教授十川廣國先生にはもう一人の恩師として公私共に大変お世話にな り、最近では21世紀COEプログラムにお誘いいただき、貴重な体験をさせていただいている。 また、植竹晃久先生・今口忠政先生・黒川行治先生を始めとした慶應義塾大学商学部の諸 先生方、亜細亜大学学長経営学部教授池島政広先生、成城大学経済学部教授篠原光伸先生、 関西学院大学総合政策学部教授古川靖洋先生、専修大学経営学部専任講師大柳康司先生ほ か多くの方々にもお世話になった。特に古川・大柳両氏には日頃の研究仲間として多くの コメントをいただき、筆者との共同論文を本書第2章3章のベースとして使うことを快く認 めていただいた。皆様に厚く御礼申し上げたい。最後に、本書出版にあたり多大なご協力 をいただいた中央経済社企画部編集長小坂井和重氏に深く感謝の意を表す次第である。